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英国のヴィンテージアンプ、Leak Point OneとStereo20の組み合わせで長らくTannoy Corner Canterburyを鳴らしてまいりました。
長らくでもない。Tannoyを自宅に迎えてから4年と半年。

蜜月とも言うべきか、そのシステムで鳴らした多くのミュージシャン達は、私に「音楽」というものを教えてくれました。

イギリスという国はその歴史をバックボーンにしてか、その土壌で作られたTannoyもLeakも、そしてLINNのプレーヤーも、私のようにオーディオにも音楽にも何の背景も持たないものに、恐ろしく淡々と音楽を聴かせてくれました。
決して媚びずに。

ただどうしても、古いアンプなので、時々調子が悪くなり、ノイズが出たり、ざわざわしたり、アンプのご機嫌を伺いながら聴いていたこともあります。それは時に不満が先行することもあり、こちらがイライラすると、アンプの方は頑としてノイズを出し続けたり、そんなこともあり、音というのは空気を伝ってくるだけに、こちらの心の振動も感じ取るのかしら、と思ったことも。

そんなこんなでも、なかなかTannoy モニターレッドをこれで鳴らしたら!と思えるアンプは意外となく。(もちろんお財布との兼ね合いもあります)

OCTAVEのプリメインアンプで鳴らしたいとずっと思いながら、V110SEなのか、V80SEなのか・・JBLには断然V110SEがいいけれど、V80SEだとうちの12インチのモニターレッドには強すぎないか?とか、いろいろ踏み切れずにいたのでした。

そこへ真打ち登場。
ヘッドフォンアンプを主体として発売されたシングルエンドの同社のV16。
これを昨年イベントで使った折のこと、モニターシルバーを鳴らし、VITAVOXを鳴らし、Brodmann JB205を鳴らし・・3極管のアンプで8Wしか出ないというのに、その琴線へ訴えてくる説得力の強さに、これはと思いました。

素人考えながら、V16はシンプルなこと(設計)の素晴らしさを生かすために、その(設計)の難しさを克服しているもの。ナチュラルでシンプルであることがいかに難しいことかに想いを馳せつつ、OCTAVEのアンドレアスが、楽しそうに軽やかに作ったこのアンプの造形がこういう形をしているのも、とてもしっくりくるのです。

V16で鳴らすTannoy コーナータンベリーは、Leakの良さを内包しつつ、さらに音楽の深淵を見せてくれます。

Duke Ellington楽団のジョニー・ホッジスのアルトサックスはさわやかで鮮やかにそして優しく私を通り抜けていき、今の私より当時何歳も若いビリー・ホリデイの軽やかにうねる声が私の心をえぐる。
シナトラのA  Man Aloneはしみじみと語りかけ、ヴンダリヒは世の中の美について考えさせる。
マティスのスザンナは愛らしいだけでなく、女であることの苦悩と知恵と潔さと諦めを持っている。
いずれも水分と空気をたっぷり含んだ芳醇な響き。
生き生きとして。

音楽の特徴をよくとらえているLEAKは、キャッチフレーズ的に様々な音楽の楽しみを教えてくれました。
一方で、OCTAVE V16は、もっと細やかに演者の表情を伝えてくれます。

以前、OCTAVEのアンプと別の真空管アンプを比較をされた方が、いろいろな音が聞こえて、情報量が多いことが自分にとっていいのだろうか、疲れてしまわないかと心配されたことがありました。
もっと甘い音の方が良いのでは?と悩まれたのでした。
でも、知ってしまった以上、目の前のものを聴きながら、「OCTAVEで鳴らしたらこうだったかも」と思うのは嫌だな、ということで「多分、OCTAVEを選んだ方が後々良い気がします」と言われたことが印象に残っています。

インターネットが入って刻一刻と更新される情報社会で、昔はよかったと思う?思わない?
昔の方が時間の流れがゆっくりだったかも。その時代が良かったなぁと思うことはもちろんあります。かといって知ってしまった今は戻れない。

特に音楽に関しては、一度経験してしまったら戻ることはできません。

上述のお客様も、結局OCTAVEのアンプにして、疲れることなどなく、音楽の楽しさを鮮やかに感じられていらっしゃるとのこと。

私にしても、V16からLEAKに戻ることはもはやなくなってしまいました。
技術は確実に進歩している。

それは先人が切り開いたテクノロジーがあったから、現代の人はそこからスタートできるということ。
ヴィンテージをやるからといって懐古主義と言われたくない。
そこには当時の人の情熱が今でもフツフツと湧いていて、新しさがあるのです。
でも、現代社会において、旧態依然ではその良さも閉じ込めてしまう。
今は今の鳴らし方で。

先人への感謝を忘れずに、前に進むことを良しとしたい、そう思った2019年のお正月でした。
ちょっと壮大すぎますでしょうか???
でも本心なのです。
(竹田)

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