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先日、ヨーロッパへの機内で観たこの映画。
劇場公開時から興味はあったのですが、どうも映画館へ行くのが億劫で見過ごしていました。
LGBT映画で描かれがちな葛藤や辛さは、時にどうにもならない無力さを感じます。
そればかり目立って描くものも多くて積極的に手にとらなくなってしまいました。

しかし、この映画は・・。
「よかった」「泣ける」「深い」「素晴らしい」などを使わずに、その良さが表現できたらよいのですが・・。
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舞台は1983年の夏。北イタリアのどこか。
大学教授の息子、17歳のエーリオと、教授の助手である24歳のオリヴァーの恋愛映画です。文化的素養の高い家庭で育ったエーリオは、いつも本を片手に、ピアノもギターも演奏して、バッハなど気軽に弾く。
同世代の友人も居るけれど、付き合いにとりわけ重きを置いていなければ、軽んじているわけでもない。でも、自分の世界がすでに確立されている。
肩肘張ってやっているのではない、でも嫌味でもなくスノッブな感じはない、当たり前のこととして、そういう日常を送っている。
言葉で説明するのでなくて、交わされる会話、食事、過ごし方、そういうことで17歳のエリオという人間像を、ごく自然に描いています。

17歳という年は特殊で、例えば「悲しみよこんにちは」のジーン・セバーグ扮するセシル、「理由なき反抗」のジェームス・ディーンのジム、最近なら「17歳の肖像」のキャリー・マリガン、フランソワ・オゾン監督の「17歳」、どの映画でも大人と子供の境目であるこの年齢で起こった事件を描いています。
サウンド・オブ・ミュージックの「もうすぐ17歳」でも、17歳という年齢は「on the brink」「Of things beyond your ken(※)」などというフレーズで歌われています。1つ年上の男性から「瀬戸際にいる」と言われ、自分でも「自分の知らない世界のこと」と言う。
※ kenというのは、主にスコットランドで「知る」という意味だとか。

そういう「17歳」からすると、エーリオにとって、オリヴァーとの出会いは初恋で事件だったとは思うけれど、世の中に対する自分の存在の提示のために反抗するとか事件を起こすとか、そういう雰囲気は全然なく、全編穏やかな空気が漂っています。
また、映画の最後まで、他者からの誹謗中傷による、あるいは「常識」という名のもとの葛藤というのは無縁で、エーリオの両親でさえ彼らのことを理解をしているのです。
またご両親が素敵におおらか。

人と人との繋がりを「恋人」とか「友達」というなんらかの言葉に置き換えたとしても、それがどれだけのものか。どんなに深いところで心の繋がりをもてるか、どれだけ同じ質量の言葉を交わせるか、そうそう多いことではないと思います。
エーリオが目にするもの、見てきたものを見ていれば、オリヴァーに恋するのは当たり前で、オリヴァーにとってもそれは同じこと・・というのが、無理なく理解できる。
「恋に落ちる」って、唐突なようで唐突でないというか・・。

それが人生の限られた一時だったとしても、そういう経験を持てたことは稀有なこと。
もしかすると男女間のほうが、セクシュアルな目くらましがある分本質を見過ごしがちで、そこまでに至らないことが多いかもしれない!?

とにかく、最後はエーリオの気持ちに寄り添って、涙を流しましたが、観終わった後、心に爽やかで優しい風が吹きました。

好き嫌いはあるでしょうが、ここしばらくの中ではMY NO.1でした。
ちなみに、こも町山智浩の解説が面白い。ローマ人の件り。

機内の小さなTVでなくて、もう一度ちゃんと観てみよう。

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