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いつだったか、
たぶん魔笛とかフィガロに狂っていた頃。
「最近オペラのアリアがなんだか良いんですよね」と、馴染みのお客さまに話したら「君も歳とったってことだよ」と言われました笑。

その方は二回りくらい上の方で、それこそオペラのアリアをよく聴いていらして「歳とると人の声が染みるのよ」とのこと。
仲間入りできて嬉しいことです。

モーツァルトは私の中で別格としても、ヴェルディやプッチーニのオペラ、いくつかのメロディの美しいシューベルトの歌曲などがずっとよかったのですが、これが最近また変わって来ました。

マーラーの交響曲3番、4楽章のアルトの独唱にはまってから、マーラーの歌曲を少々「嗜む」ようになって参りました。(気取りもアリ)

シュワルツコプの歌う、マーラーの「リュッケルトの5つの歌曲」の「ich bin der wert abhanden gekommen」はディスカウとバーンスタインの盤で聴き慣れた曲ですが、またシュワルツコプで聴くと違うなあ。

しみじみ聞いているとどんなことを歌った歌なのか自然と興味が湧いて来ます。

タイトルは「私はこの世に忘れられ」とよく訳されているのを見ます。私はこの世で姿を消したと訳していたものもありましたが、要は世間から関心をもたれなくなったということでしょう。有名人はもちろんそうでしょうが、小さなコミュニティだって、人の自分への関心がどれほどのものなのか、例えばお誕生日におめでとうと言ってくれる人が何人いるかとか、そんなことだって気にし始めれば「私はこの世に忘れられ」となるでしょう。

これはリュッケルトというドイツ詩人の詩を歌曲にしたもので、内容は、このタイトルの一言に尽きるのですが、最後がなんだか夜ひとり、自宅のオーディオでシュワルツコプの歌うこの曲に耳を傾ける自分を歌われているようでイイなと思ってしまいました。

Ich bin gestorben dem Weltgetümmel,
Und ruh’ in einem stillen Gebiet!
Ich leb’ allein in meinem Himmel,
In meinem Lieben,in meinem Lied!

Google翻訳をもとにちょっとアレンジすると、

私は世間の喧騒の中で死にました
そして静かな場所で休みます
私は一人で天国に住んでいます
私の愛の中で、私の歌の中で!

ちなみに、タイトルの「abhanden gekommen」は道に迷ったみたいな意味らしく、タイトルの直訳が「世界に迷った」。

言葉のままに、死や天国を夢見るより、これが詩になり、歌になったことを思えば、
たまには世間の迷い子にでもなって、オーディオに耳を傾けるのが、人間幸せってもんじゃない?ときて、最初の「君も歳とった」で締める。なかなか良くできたと思うのは自分ばかり。

(竹田)

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