
昨日ポッドキャストの収録で、シナトラの「Only the Lonely」を取り上げました。
全然上手に話せなかったので、ここで書いちゃう。
昔からこのアルバムが良い作りだとは思っていましたが、年々いいな‥と思えてきて、こんかい取り上げるためにかなり聞いたら、このアルバムやっぱりすごいと思いました。
1958年のアルバムで、シナトラ43歳。
美人女優エヴァ・ガードナーとの大恋愛の末の結婚と破局のあと、失意の中でリリースされた1枚。
編曲はネルソン・リドル。
ネルソン・リドルを初めて知ったのは、リンダ・ロンシュタットのアルバムジャケット。
リンダの歌う横に立っているこのオジさん誰‥と思っていたら有名なアレンジャーでした。
リンダがJAZZスタンダードを収録した3部作はすべてネルソン・リドルのアレンジで、グラミー賞も受賞しているんです。
シナトラもネルソン・リドルと数々のアルバムを作っていて、この「Only the Lonely」も本当に「編曲」という仕事のすごさを思うのですが、1998年のジャズ批評「フランク・シナトラ大全集」(No.97 )の中の「シナトラのアレンジャーたちとヴォ―カル・アレンジメント発展史」という記事を読んで「へ~~~」と思いました。
ネルソン・リドルのアレンジ教則本で、リドルがシナトラとのレコーディングの打ち合わせに触れた模様を、書かれていたことがとても印象的。
記事の抜き書きすると「最初の二,三曲は息苦しくなるような雰囲気の中で、キーや店舗のこと、どこでクレッシェンドするかどこでディミニュエンドするかなど具体的で事細かな注文が出される。」(中略)「コメントもだんだん具体的ではなくなりあと二、三曲やると『あとは好きなように書いてくれ』でけりになるそうである。」
筆者の小川俊彦さんはこう続けています。
「最初の数曲の集中的な打ち合わせでシナトラは新しいアルバムの方向を伝え尽くしてしまっているのである。そしてリドルはそれを頭に叩き込まれたあと解放され、才能の赴くままにペンを振るい、新たな名アルバムの誕生となるのである。この話はシナトラ自信が誰よりも優れたマテリアリストだったということを証明している。」
(この場合のマテリアルというのは、キーやテンポ、リズム、オーケストラの規模や全体の曲想を決めることで、そもそも編曲者の仕事の一つ)
シナトラは、ベスト盤などで聴くと明るい曲が多いけれど、このアルバムにしろ、他のものにしろ、一貫したものを感じますが、そういうことだったんですね。
そういうことを知った上で、このアルバムのこの流れがまた凄いと思うのです。
最初の曲「Only the Lonely」は、タイトルそのもので、このアルバムの為に書かれた曲。
冒頭のオーケストラがこれから始まるお話しの短い前奏のよう。
わたしが行く場所は孤独な人が行く場所、私が知っている歌は孤独な人が知る歌、
わたしが見る夢は・・と続いて、
もし、愛を見つけたら、それを大切にして、そうしないと孤独を知ることになる
と終わる。そしてこの後「孤独な人が知る歌」と言わんばかりの失恋ナンバーが続きます。
酒場かなんかで勢いよく「ほら、皆飲めよ、なんでも注文して」自分は街中にあの子(Angel Eyes)を探しにいくと言って店を出る。多分探しに行くんじゃなくて、皆でわいわいしていられない。あの子が帰ってこないことは知っている。コートの襟を立てて、どこへ行くともなしに街の暗やみに消えていく男の後ろ姿。
誰が歌うよりも暗いWhat’s New?「どうしてた?あの恋はどうなった?こちらは相変わらずだよ」途中歌い上げていくけれど、どんどん落ち込んで行って「まだあなたのことを愛している」というフレーズの低さ。
あなたがいないと寂しい街だという「It’s a Lonesome Old Town」こんなに寂しい曲調で抑揚のない歌が必要か?と思うくらい、重苦しい。深海に居るような気持になったと思ったら、やや自嘲気味の「Willow Weep for Me」。柳にまで同情を乞うなんて。
「あなたを決して忘れることはない」と一語一語かみしめながら歌う「Good-bye」。
この恋が完全に終わっていることを自分が一番理解している。
ママがよく言っていた「女なんてウソつきで厄介者、お前なんか一人取り残されて夜にブルースを歌うことになるんだよ」ママの言うとおりだった「Blues in the Night」そうだよ、ママの言うとおりだった・・少し立ち直って優しいギターのソロで心の窓を開ける「涙を乾かしておくれ」(Guess I’ll Hang My Tears Out to Dry)不思議なことに彼女なしでもやっていける。ある日彼女が私のすぐそばを通り過ぎて・・「Ebb Tide」波が打ち寄せ、また海に引き戻される、まさに引き潮そのもののようなストリングス。波がかえすその度に藻が浜に残され、また海へ持っていく。それがシナトラの言葉で、思いで二人の想い出。海から吐き出され、また戻っていくたびに何かが失われていく。でも「I can tell I can feel you are love You are real」
自分のところには春は来ない、来るわけがない。老いさえ感じさせるようなSpring is Hereは、シナトラの後ろのストリングスは花開き蝶が飛ぶような背景。風が吹く。すべて風と共に去りぬ「Gone with the Wind」少し清々しさが戻ってくる。
午前3時、人のいないバー。奥でピアノだけが鳴っている。
バーテンダーに「もう店じまいしてしまえよ。聴いてほしい話もあるんだ」One for My Baby。ジュークボックスにコインを入れて哀しい歌をかけてくれ・・・。
それがこのアルバム。
まるで良く出来た小説のよう。
作りも素晴らしいながら、スタンダードナンバーを紡いで、上に書いたようなことを感じさせる、歌心が凄い。
ところで、Guess I’ll Hang My Tears Out to Dry(涙の乾くまで)を聴くと、いつも九ちゃんの「涙くんさよなら」を思い出しちゃう。なんとなく始まりかたも。
(竹田)