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私の母はお話し好きです。
実家のリビングにいると、本を読んでいても音楽を聴いていても聞いてようがいまいが滝のように話してきます。
もはやラジオの域で、一応生返事をするのですが、中には時々興味の向く話もあります。
(そんな時は、話を少し巻き戻しする。

俳優の山崎努のインタビューだかなにかで(日経新聞と判明)、森繁久彌と共演した時のことについて書かれていた話。
映画「地の涯に生きるもの」で森繁久彌が歌った「知床旅情」は、監督からその場で頼まれて即興で作ったものだった。
自分(山崎)も年取ってきて、周りもだんだんいなくなって、現場にいて目にしたことをこうして誰かに伝えておかないとと思って。
「知床旅情っていい歌なのよ」

母がこれまでにはまった音楽と言えばフリオ・イグレシアス、ジプシー・キングス、パヴァロッティwithFriendsのCDなど。
あと見た目でカラヤン。
母は若い時分に帝国ホテルで、食べきれずに残したのをマネージャーらしき人物に「食え」と言っている森繁久彌を目撃して、「嫌な人だと思った」という話を子供のころから度々聞かされていたので、なんだか意外で、すぐに、かけていたモーツァルトの音楽から「知床旅情」に切り替えました。

「そうそう、この歌。もっと年取ってからのほうが味があったけど」

なんだか意外な展開の森繁久彌に興味が湧いて、店に出てからもJensen Old imperialで聞いたりしていました。
映画は観ていないのですが、北海道が舞台の話で歌われているものですし、森繫久彌が、演じた役か、あるいは物語かに自然に気持ちを寄せている感じがして、改めてこの人は根っから役者だったんだろうなぁと思いました。
歌でもその役柄を演じているというか。

Spotifyで森繁久彌の「愛誦詩集」という詩の朗読アルバムを見つけました。
詩の朗読って、他人の感情が間に入る感じがあまり好きではなかったのですが、この人ならあるいはと思い、中原中也「汚れっちまった悲しみに」をかけてみました。

吉田秀和著「モーツァルトをきく」で、音楽批評に関して度々目にするのが「感傷的になりすぎてなくていい」ようなこと。
それからすると、森繁の中也はちょっと感傷的ではあるけれど、プロというか、わかってはいても泣かせるところがあります。

しかし与謝野晶子「君死にたまふことなかれ」では、映画「もののけ姫」で演じたおっことぬし様を思わせてしまいます。
あれも戦いではあるけれど・・。

でも白秋の落葉松ではやっぱりいい。

「君死に・・」は、文語調も戦争も私にとってそれほど遠い存在になっていることなのか、あるいは過酷な戦争体験をした森繁からすると、悲しいとか辛いとか生半可なものではなく、どのように読めばいいいのか答えがなかったのもしれない。
(竹田)

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