先日、LOUNGEからみずみずしい音楽が聞こえてきて、事務所のPCとのにらめっこから顔をあげました。
誘われるように表へ出て、ご試聴されているお客さまご自身の選曲とわかりましたが、BrodmannとGoldnoteのスピーカーの真剣試聴で、お声をかけるのも躊躇われて、こっそりLINN Kazooアプリを開き、再生中の音楽を見たらこれでした。
ラヴェルのピアノ協奏曲の2楽章のAdagio。
ピアノのソロで静かに始まるAdagioで、あちらに行ったりこちらに行ったり気ままなような基音が、水の中でたゆたうようで、途中フルート(かな?)の調べによって、また時に不協和音を伴って、表情を変えていくピアノの響きが美しくて、、
何かのイメージと重なりました。
先日映画館で観た「Cold War あの歌、2つの心」。
劇中でこの曲は使われてなかったと思うけれど、主人公のズーラの気分と重なるような・・。といっても、おそらく賛同する人はほとんどないと思います。
舞台は冷戦時下のポーランド。では戦争ものの映画か?というとそうでもなくて、ポーランド人の男ヴィクトルと同じくポーランド人の女ズーラの恋愛のお話。
ヴィクトルは音楽家で、国内を回ってポーランドの伝統的な民謡やスラブ音楽を集めていて(民謡って土地のもので歌い継がれるものだから。)、その中で民謡を歌うズーラと出会い、恋に落ち・・というもの。
基軸の話は非常にシンプルですが、背景に冷戦があり、歴史も含めたポーランドという土地柄もあり、ポーランド人の役者がまたすごく良くて、ただの恋愛モノに留まっていないのです。
とりわけ、主人公のズーラには「生きる」ということを感じさせられ・・というと、また一辺倒ですが、押し付けがましい説明的な映画でなく、ただただ、映画の中の彼ら、特に彼女に「生きること」・・強いて言えば「女として生きること」を見せつけられた感じ。
そのズーラというポーランド人女性の「生きる/活きる」姿とこのラヴェルのAdagioは結びつかないと言えばそこまでだけれど、冒頭のたゆたうようなところから始まって不協和音の中にも一貫して美しさが揺るがないところ、全部が裏表のように繋がっているところなどに、彼女の「生」を聞いた感じだったのでした。
うまく説明ができないのは、本日家に帰ったらエアコンが壊れていたことを理由にしようと思いますが、風の出ない無用の長物を睨むのをやめて、真空管アンプに火を入れて、小さい音で窓を開けながらこれを書いていると、秋の虫の声が重なって、思うよりは暑く感じないのでした。
昔は暑さで寝苦しい夜に、祖母と母が交代で団扇を扇ぎあいながら寝たりしたんだった。
(竹田)