今日は休み明けで、あまり休日のことを休み明けも引っ張るのはどうかと思いますが、頭を離れないので少し・・・。
今月の歌舞伎座は、顔見世で市川染五郎が40歳を超えて初めての弁慶を演じています。
演目は歌舞伎十八番のひとつ「勧進帳」。
お話の内容は、ざっくりいうと・・
壇ノ浦の戦いで兄源頼朝に謀反の疑いをかけられ「お尋ね者」になった義経が、弁慶を始めとした家臣を連れて山伏に身をやつし奥州へ行くのですが、関所を超えて行かねばなりません。
関所を超えるのに、なんとか関守の目を誤摩化さねばなりませんが、敵もそうそう横着してはおらず、怪しいものは絶対に通さず、義経とあらば即刻引っ捕えるという、緊迫した状況。
厳しい関門として一行の前に立ちはだかります。
関守・富樫に怪しいと思わせないために、弁慶を筆頭に一行は山伏になりきります。
焼失した東大寺再建のための勧進を行っているので関所を通せと言いますが、敵もそうやすやす応じてはくれません。
それなら勧進帳をもっているはずだから読み上げてみろといわれ、弁慶はアドリブで何も書かれていない勧進帳を読み上げ、更には、山伏に関する質問を次々となげかけられ、、、と、緊迫した状況下、当意即妙に対応する弁慶。
・・・そういう内容のお芝居ですが、今でこそ薄れてしまった「主君への忠誠心」がこのお芝居の1本の柱。
言葉で言うの簡単ですが、それを「演じる」のは、そう簡単なものではないと思います。
「忠誠」というものが、現代ではそう身近なものではないし、代々の歌舞伎役者が演じてきた伝統的なお芝居ですから、表面で演じては薄っぺらいものになってしまうでしょう。
歌舞伎を見ていなくても、現代劇や大河ドラマで顔を出して名の通っている市川染五郎が初めて弁慶を演るということで、歌舞伎ファンとしては見ておかねばと行ったのですが、内心は・・・
染五郎の柄からすると、見た目は荒事の弁慶と言うより細面で美しい義経、もしかするとまだ関守の富樫のほうがあっているかな、と言う感じ。
実は、染五郎の弁慶など、まったく想像もつきません。
歌舞伎のコアなファンが居ないことを願ってぶっちゃけてしまえば、今回は「ずっこけ弁慶」でも先々「上手になったけど最初はあんなに下手だった」とか、「染五郎も昔弁慶演ったことがあるんだよ」とか、年を重ねた時に話題になること間違いなしと思って、ほとんどヘタと決めつけて期待せずに出かけた今回の顔見世でした。
しかし結果は・・・
弁慶の荒っぽさや人柄の大きさをしっかり出しながらも、義経に対する忠誠心、使命を遂行するための機転と思慮深さが滲み出て、「弁慶」その人となりを改めて考えさせる程の素晴らしい演じぶり。
弁慶がその身に何本もの矢を受けながらも、義経を守るため立ったまま往生したエピソードを思い起こさせる程。
オーディオで聴く音楽もそうですが、眼の前に見えないものをいかに見せるか・・・
それをその場にいた何人もの人が同じように感じたならば、目に見えなくともそれが真実だと思います。
昨日の染五郎はまさにそういう弁慶で、今まで團十郎から幸四郎から、海老蔵から松緑と何人もの弁慶を見て、それぞれに素晴らしかったのですが、昨日のは生涯記憶に残る芝居でした。
今月の芝居、まだ間に合えば、是非!!