先日手に取った本がすごくよくて、自分の中にその本が根を生やしていくような感覚を覚えています。
カズオ イシグロの「クララとお日さま」
カズオ イシグロは数年前にノーベル文学賞を受賞した作家で、長崎出身の日系イギリス人。映画にもなった「日の名残り」や「私を離さないで」はこの方の作品です。
私は、大学で英米文学を専攻したので、彼の英文はテキストとして使われることもありましたが、当時読んだ数ページは、簡潔な英語で非常に読みやすかった覚えがあります。(と言ってもその先は日本語でしか読んでいないけれど)
この物語の主人公はAI(人工知能)の女の子のロボット。
AIを入れてくるとは結構流行りを取り入れている感じ・・と思いつつ、カズオイシグロの感性がAIをどう描くのかは興味があります。
しかも受賞後の1作目で、前作からは6年が経っています。
決して多作というわけでなく、1作1作が丁寧に書かれた小説だから期待も高まります。
物語はそのAIのクララの目線によって描かれます。
時代背景や舞台は、特定されていなくて、近未来的。
クララの状況説明によって、どんな社会なのかが垣間見えてきます。
AIだから知っていることは知っているけれど、当たり前のようなことでも初めての局面では子供の新鮮さを覚えつつ、大人の知識で対応する。
表現の仕方も、時々くすっと笑ってしまうようなことも。
たとえば普通なら「蜘蛛の巣張り巡らして・・」と描かれるようなところが「蜘蛛の活躍が目立って」などと、洒落ています。
時々読みづらい箇所が出てくるのは、どうやらクララの理解が追い付かず混乱する・・といった感じで、読み進めるうちにその感じにも慣れて、物語に引き込まれます。
ストーリーについては触れませんが、読み終えたときに人間というものを考えます。
AIは着実に学習していくものとして、人間との大きな違いは、感情によって能力や対応がぶれないということではないでしょうか。
人間は、基準はあるようで、本当はなく、ブレるもの。
AI(ゼロ/基準)が入ることで、どうなる??
もちろん、このお話は、カズオイシグロというれっきとした人間によるものだけれど、AIを考えることで、いろんなことを思いました。
「生きるとは」「人間とは」とかそういう壮大な感じではなく、「日々の生活」というような等身大の、ごく親しみ深いものに様々な考えが及ぶ感じ。
読後感もさわやかですが、クララを思うと、色々まだまだ考えてしまいます。
一つ、日本語が素晴らしいなと思ったのは、題名の「クララとお日さま」の「お日さま」。
原題は「Klara and the sun」。このタイトルは「太陽」でなくて「お日さま」が本当にピッタリなのです。
綺麗で、醜くて、美しくて、悲しい。
これは大人の童話のような物語でした。
(竹田)