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弊店でWestern Electric 91Eを扱い始めたので、お客様がかつての91Eの記事をお持ちくださった。
それは管球王国の2014年の記事であるとか、無線と実験、古くは別冊FM fanの1980年の号からの抜粋で、私たちのような若輩の集まりの店では本当にありがたいことです。

オリジナルの91Eとレプリカを色々比べたりしているのを読むにつけ、目の前の91Eはきっとまた別の音なんだろうなぁと思わざるを得ない。
だって、こんなに見た目からそっくりなオリジナルとレプリカでさえ「オリジナルの足元にも及ばない」とあるわけで。

時代を経て、Western Electric社が改めて取り組んだとして、今のモデルからしたらまるでお金のかかっていなさそうな当時のモデルに一体どの点で肉薄するんだろうか、とか余計なことを考えてしまう。

現代版の91Eは、その歴史から見るとデザインがゴージャスすぎるようにも思えるし、300Bが神格化され過ぎているようにも思う。今はもっと他の・・・例えばシングルアンプ繋がりで手前に置いたOCTAVE V16などもあって、300Bは載せられないけれど、ヴィンテージ管のEL34や6550は我が家でTannoy Corner Canterburyをうっとりするような鳴らし方で鳴らしてくれるし、実際にこの現代版91Eとの比較でパラゴンやTru-Sonicなどを鳴らせば、むしろ歯切れのいい制動力を見せてくれるのはV16の方だと思う。

ちなみに、緩急王国Vol.72の記事中で今は亡き篠田先生が「300Bにしろ2A3にしろ、管球そのものの素性が出るのがシングルアンプですね。」とコメントされていて、V16で様々な真空管を試した時にすごくその違いが出て面白かったことを思い出す。
OCTAVEも、Jubilee 300Bのように高くなく大きくなくて、v16くらいのサイズでそうした真空管を聴くことができたらどんなウェスタンマニアも唸らせるのではないか、と夢想したりもする。

「ところがシングルアンプは、プッシュプルアンプに比べると力感がない。」と続いている。
わかるわかる、でもかえってヴィンテージスピーカーには、強すぎなくて痒いところに手が届く鳴り方ですごくいいの。
「だけど91アンプは、シングルなのに力感があるんですね。」

アンプの力感という点で、ヴィンテージアンプと現代のアンプで感覚が異なる部分がおそらくあって、
今や手のひらサイズのデジタルアンプでそれなりのスピーカーが鳴らせてしまう時代。
現代の真空管アンプもトランジスタなどと組み合わせたハイブリッドタイプも多くあるし、そうでなくても技術の積み重ねからか、この現代版91EやOCTAVE V16のようなシングルアンプでも力感はしっかりある。

特に91Eは、出力トランスを16、8、4Ωと差し換え出来たりもする(※)し、
個人的には「パワー」というのはただあればいいものじゃないと思う。
適した力を必要な分だけ。それが優秀なアンプの「制動力」だと思う。
(どんどん脱線するから省くけれど、パワーアンプをコントロールするプリアンプの能力も大切)
※ ヴィンテージで鳴らすことの多い弊店では現在16Ωをのせていますが、8Ωトランスの用意もあり。

話を戻すと、結局現代版91Eはどうなのだろうかというところですが、
オリジナルの91Eもそのレプリカも聴いていない私には何かを言うことができない。
ただ、民生機でもないのにレプリカがいくつも作られ、しかも何度もこうして記事になっているところ、先生方の白熱の鼎談を見ていると、人を動かす力を持っている「音」だったということは確かだ。
それでもそれがどんな音だったかは、やはりイマイチわからない。

ただ、今目の前で「Some Other Time」を言葉をかみしめるように歌うトニー・ベネットの声、ビル・エバンスの確かな伴奏、「Blowin’ in the Window」のボブ・ディランの歌に対する澄んだ心を聴くと、
「ああ、これが91Eの力なんだな」と思う。
(竹田)

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