今日は好きな2曲についてとりとめもなく。
JAZZピアニストの菅野邦彦さんの「慕情」
菅野邦彦さんと言えば、オーディオファイルの方ならよくご存知の菅野沖彦先生の弟さん。
と、言ってみるはものの、「〇〇氏の兄弟」とか、そういう枠での活躍の方ではなく、天性の音楽的才能をお持ちの方なのだと思います。
ご活躍当時は、日本版エロル・ガーナーと言われたとかなんとか。
そういう色々な情報を知らない耳にも、心打たれる演奏で、
初めてオーディオで耳にした時からファンなのです。
「慕情」という曲は、そのままの通り、映画「慕情」(1955年)の主題曲で、
「Love is a many splendored thing」を「慕情」とした当時のセンスに、
なんて日本語は豊かなんだろうと、敬服の念すら覚えます。
原題を直訳すれば「愛とは輝かしいもの」。
おそらくJAZZのスタンダードナンバーの1曲にもなっているこの曲を、
演奏している、あるいは歌うミュージシャンは数多いと思いますが、
私にはこの菅野さんの演奏に一番「きらめき」や「かがやき」を感じるのです。
「愛とは輝かしいもの」と言ってしまうとそれだけのような感じがしますが、
くさいこと言えば、「愛」にはただプラス志向の「スキー」とかだけではなく、
せつなさや寂しさ、自分の気持ちは永遠に理解されないのではないかという歯痒さ、やるせなさ
あるいは思いがけない程の幸せな気持ち、刹那、
最終的にはギブ&テイクではない無償の気持ち、淡々と続く中で積み重ねていくもの、などなど
そういうことを全部含んだことであって、そういうことすべてトータルして、
「輝かしいもの」であるのではないかと思います。
菅野さんの演奏は、そういうことが全部含まれていて、
何度聴いても、都度自分の経験値で感じ取れることが変わってきて、
それだけ演奏に奥が深くて、結果的に「愛とは輝かしいもの」と思わせられます。
こういう風に思う演奏は中々なくて、それは同じ四季折々をもつ日本人だからなのか、「慕情」という2文字でそういうことを表してしまう文化があるからなのか、
あるいは菅野さんの人生がそう思わせるのか分からないけれど、
きっと時代を超えて残って行く名演なのであります。
「愛とは輝かしいもの」の先に、いつの間にか手から離れてしまったものとして
荒井由美の「翳り行く部屋」
この曲は荒井由美としての最後のシングル。
冒頭のパイプオルガンが印象的で、これは目白の「東京カテドラル教会」のものだそうですが、オーディオ的にもちょっと興味深い曲であります。
「翳り行く部屋」は、タイトルの通り、完全に道が分かれてしまった恋人(夫婦?)たちを歌っていますが、どうしようもない別れが訪れてしまった時に、どこで間違ってしまったか、取り返しのつかないことでも、それを思わずにはいられない・・
それはある時期「愛とは輝かしいもの」であったからこそ、そう思うのだと思います。
私より少し上の素敵な女性が
「自分の人生、全ての瞬間で自分が選びとってきたことだと思う。
全てにおいて、自分に責任がある。だから後悔はしない」
と言っていたことがあります。
そういう言葉を発せられるようになるまで、きっと葛藤があって、
この曲でユーミンが歌うようなことも大なり小なりあるのではないかと思ったりします。
少なくとも、自分にはそういう感情の経験がある。
それを22歳のゆーみんが書いたなんて、今からすると考えられないというか、
二十歳で成人と言いますが、昔22歳でこういう詩を書く人が居るならば、
今は30歳でもおぼつかないなと思います。
そんなこんなは、聞こえてくる音楽に気づかされることだったりするわけで、
アーティストの思惑かどうかわかりませんが、
機械がよくなるにつれ、ミュージシャンの心に少しでも近づいていることは確かなんじゃないかと思っている次第です。