店にヴィンテージスピーカーが持ち込まれた日。
ドキドキしました。
難しい問題が持ち込まれたようで。
ちょっと後ろに下がったかも。
あんまり関わりたくないな・・・と。
折角6年とか7年とか続けてきて、やっとほんの少しばかりオーディオの説明が出来るようになったのに、もっと難しい世界に、手の届かない世界になっちゃうわけ?
追いつこうとしても追い付けない・・・一方的な片思いのようです。
ちょっと皆の後ろに下がって遠目に眺め、OCTAVEでEMPIRE9000Mが鳴り始めると、なんとなく「あれ?」と。
なんだか音楽が語りかけてくる。今まで耳にしたことのない滑らかなシナトラの声、オイストラフの弦の響き、アート・ペッパーのサックス、オスカー・ピーターソンのピアノ・・・。
確かに、PIEGAのスピーカーを瞬間的に「決めた!」時よりは時間がかかったかもしれません。EMPIREに「家に来て下さいますか?」と言う日がくるまで。
ヴィンテージを自分のようなわけのわかっていない者が持っていいの?とか、ありがたみがわかるの?とか、扱えるの?とか、鳴らせるの?とか、新しめの普通のマンションに合うのかな?とか、色々葛藤(?)があって、でも聴けば聴くほどに所有欲が湧いてきて、まずは借りて家で鳴らしてみて、その後少し控え目に「欲しいんですけど」と言ったのでした。
EMPIREが家に来て、すぐに鳴らしきるとは到底思えませんが、深々と懐の深い音楽を聞かせてくれ、スタンドレスだったTC10Xのスタンド代わりにもなってくれ、部屋になんとなく暖かみをもたらしてくれました。
その後、調子づいた私は、JBLのアクエリアスが店に持ち込まれエラ&ルイが鳴った瞬間に「買います!」とか突っ走るわけですが、かと言ってヴィンテージ一色になったわけではないのです。
そう、ヴィンテージスピーカーが身近になって、怖くなくなって何が嬉しいかと言うと、現代・ヴィンテージに関わらずスピーカーのそれぞれの良さというのがわかりやすくなったような感じなのです。
現代のスピーカーのカタログを読んでいると、各メーカーがそれぞれの技術に名称をつけ、とても難しいことのように書かれていて、「つまり?」とよく男性スタッフに尋ねることしばしば。
概念で分からないと、言葉だけではイマイチ頭に入ってこない。
メーカーオリジナルのヴィンテージを扱うにとどまらず、店で作成したキャビネットにヴィンテージユニットを組み上げ、オリジナル・スピーカーを作るにあたり、スピーカーの構造だとか、何が大切かだとかが目で見て分かるようになったんですね。
なんだ、物凄い単純なことだったんだ!?・・・と。
ユニットがあって、キャビネットがあって、配線があって・・・それが基本中の基本。
当たり前のことのようですが、意外と盲点だったのでしょう。
でも、一方で凄いさじ加減が必要で、ここは今までセッティングで色々試してきた経験が少しは役立って、「こうしたら」と皆で考えて試すのがますます楽しくなったのです。
こうして始まった私とヴィンテージ物語・・・。
店頭で「いい音するね」「かっこいいね」と言われると嬉々として、「これはヴィンテージのユニットを使っていましてね・・・」と始めてしまうのでした。
(竹田)