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弊店では、この春からF.B.Dのスピーカーの取り扱いを始めました。

F.B.Dのスピーカーを作っているイースタン・サウンド・ファクトリーは、最近では新宿の歌舞伎町109シネマズ プレミアムへ全館スピーカーシステムを用意されたのがホットなニュースですが、これまでもさまざまな映画館や、PA用の機材、ミュージシャンの方へのオーディオの提案など、幅広い提案をしている会社です。
109シネマズ プレミアム新宿のサウンド

そのご縁で、今回、チェリストで作曲家でもある溝口肇さんをお招きして、溝口さんにFBDのW-01とW-02の2機種を聴いていただきました。

溝口さんはプロデューサーでもあられるので、録音現場やプロ用機器などの観点からもさまざまなお話が伺えました。
2回に渡って、ご案内して参ります。

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※ 溝口さんの敬称略させていただきます。

竹田  早速ですが、F.B.Dのスピーカーを聴いての印象はいかがでしたか?

溝口    まず、驚きました。

このスピーカーはHF(高域)にコンプレッションドライバーを使っていますよね。
それがこのスピーカーの特徴の1つという事ですが、正直僕はコンプレッションドライバーに対して良い印象がなかったです。

それはコンサートの時に使う”転がし(フロアモニター)”というモニター用の印象が強かったためですが、これがコンプレッションドライバーを使うのです。

「転がし」は高域の圧縮された音が指向性強く耳に届くもので… そうですね、距離にして2mぐらいの位置でしょうか、そこから非常に強い音が届きます。

PAのステージモニターシステムというものがいわゆるオーディオとは違う考え方で成り立っている事が理由なんですが、客席に向かって拡声される表の音はステージに回り込んだり、反射によってステージに返ってきて、今自分がどのように演奏しているか、演奏が正しいか正しくないかが分からなくなるので、モニタースピーカーで自分の演奏している音を聴きながら演奏するのですが、この(ステージモニターから拡声される)音が荒いのです。

僕の感覚としてはもはや”痛い”くらいの音です。

良い印象が無かったのはそのためですが、これ(F.B.D)は違いますよね・・。

ただ、以前にも同じように感じたことが1度あります。

竹田  コンプレッションドライバーの印象が変わられた・・?

溝口 はい。以前とあるオーディオ雑誌の企画でスピーカーのブラインドテストに参加したのですが、その時に聴いた中で私が一番良いと思ったものがJBL 4309でした。

竹田  あ、JBL 4309の高域はコンプレッションドライバーですね。

溝口  そうです。その時もあとからコンプレッションドライバーと聞いて「こんなに良い音がするんだ…」と驚きましたね、

竹田 JBLは 4309はスタジオモニター系ですから一口にコンプレッションドライバーと言ってもPAスピーカーのものとは違うのかもしれませんね。

溝口 はい。今回F.B.Dのスピーカーを試聴するにあたって設計者に話を聞き、実際に音を聴いて改めて感じたのは
「手間やコストをかけ、ちゃんと作れば、コンプレッションドライバーってすごく良い音がする」という事でした。
僕の記憶にある嫌な感じの鳴り方とはまったく別物です。

それからもう1つFBDの特徴で僕が良いなと思った事は、“同軸”であることです。
僕はメジャーデビューして37,8年くらいになりますが、デビュー当時に使用していた新宿のテイクオンというスタジオで使っていたのがUREIの811Bというスタジオモニターでした。

この811Bは同軸2WAYで、ユニットの中央にホーンがマウントされていました。

竹田  構造としてはFBDと同じですね。

溝口  そうですね。
僕はデビュー当時から”同軸の音”でキャリアを重ねてきました。今でもプライベートスタジオで使っているのは同軸のスタジオモニターです。

そのくらい好きなので、FBDはコンプレッションドライバーなのに音がよく、更に同軸であるところが非常に好感を持ちました。

竹田 私もスピーカーはシンプルな構成に惹かれることが多いです。
FBDではW-01とW-02という大小2つのモデルがあり、その2機種を聴いていただきましたが、それぞれの印象はいかがですか?

溝口 僕はW-01が好きですね。これは単純に個人的嗜好です。
以前、スタジオではムジーク(musikelectronic geithain)の初代RL906を愛用していました。

今は手放してしまったのですが、RL906はW-01と同じくらいのサイズで、そのサイズ感に慣れているのかもしれません。
スタジオはいわゆるニアフィールドモニターとして使っていて、スピーカーとの距離が1m無いくらいです。
それほど大きいモニターは必要なく、むしろ小さいモニターの方が音が見えやすく仕事しやすいという感覚があります。

竹田 初めて来られるお客様の中には、低域重視で、フロアスタンドのほうが優れていると思われている方が多いです。もちろんフロアスタンドの量感や懐の大きさなどの良さもありますが、実際色々聞いていただくとブックシェルフ型のキレの良さやスピード感のほうが好みという場合も多くあります。
音楽家の溝口さんから見て、昨今の低音重視のオーディオや音楽というのはどのように感じられますか?

溝口  そうですね。小さなスピーカーで不自然な低音を出そうとすると音楽が破綻します。大きなスピーカーでもある程度ドライブ力のあるパワーアンプでないとちゃんと低音が再生されないということも多いですね。
それから、僕がリビングで使用しているのはJBLのバロン(ヴィンテージスピーカー)なのですが大音量では聞かないので、体で感じるような低音ではないですが、そういう聞き方はしませんね。

竹田  普段ご自宅では小さめの音で楽しまれているのですね。

溝口  スタジオでの作業時もそうです。大音量での作業は疲れてしまうので…
たまにボリュームをあげる事もありますけど、大きな音は基本的にバランスが崩れることが多いので苦手です。

ただ、最近行った新宿歌舞伎町の「109シネマズ プレミアム新宿」は良かった。
大きな音で聴いても良い音ならいいですね(笑)

竹田  109シネマズ プレミアム新宿はFBDの設計にも携わっている株式会社イースタンサウンドファクトリーがサウンドシステムを手掛けていますね。私も行ったのですが、音が大きくても歪なく、うるさくならないですね。

溝口 まさにそこなんです。うるさいか、うるさくないかが重要ですよね。音の大きさとうるささはイコールではないのです。
あそこまで音の調整がきちんと為されている施設は稀ですよね。

竹田   確かにそうですね。今ちょうど映画館のお話もありましたが、FBDのスピーカーは、ホームシアター用のスピーカーとしては、どのような印象を持たれましたか。

溝口 僕はホームシアターはやっていないからなぁ…映画を観るなら映画館に行っちゃうから(笑)

ただ思ったのは、FBDのスピーカーを使ってイマーシブな環境を作ったら良いだろうなとは思います。最近は音楽作品でも立体音響を取り入れたものも増えてきています。
スタジオもイマーシブオーディオ対応のところが増えてきましたからね。

Dolby Atmosだったり、SONYの360 Reality Audioだったり。SONYスタジオには先程話に出たムジークのRL906が入っています。
そういった意味でもホームシネマに対する親和性は高いと思います。

竹田 今までF.B.Dやオーディオについてお話を伺ってきましたが、今度は溝口さんご自身についてお話を伺っていきたいと思います。溝口さんは幼少の頃に音楽をはじめられたと伺いましたが音楽家としてのキャリアを伺えますか?

溝口 はい。ピアノは3歳からはじめました。11歳からチェロをはじめて、勉強としてはクラシックをやっていましたが、東京藝術大学入って2年目にポップスの仕事をはじめました。コンサートでのサポート奏者としての仕事です。

八神純子さんのツアーのサポートをしていた頃の話ですが、ステージ上でも僕たちサポートミュージシャンが演奏しているところって暗いのです。
弦楽器はステージでも後ろの方に居るので特に暗い。
ステージでは当然八神さんにスポットライトがあたっていて、後ろの方から「あそこに立てるようになりたいなぁ」と眺めていたのが、今のキャリアに至るきっかけの一つだったと思います。

芸大には上手いチェリストはたくさんいて、チェロのソリストとしてやっていくのは難しいかもしれないし、時間もかかると思ったのです。

そこで他の人がやっていない方法・・・自分で作曲して演奏するというシンガーソングライターのようなチェリストになる事を考えまして・・・スポットライトを浴びるポジションへの近道ではなかろうかと思ったわけです。それを思ったのが大体24歳くらいの時でした。

竹田 そこが転換点だったわけですね。そこからどういった経緯でデビューにまで至ったのでしょうか?

溝口  当時僕はスタジオミュージシャンを始めていて、仕事で知り合ったディレクターにデモテープを渡すという、昔ながらの方法で売り込んでいました。カセットテープを常に3,4本は持っていて、いつでも渡せるようにしていました。

竹田 作曲は、24歳のときにそう決意されたときから始めたのですか?

溝口 もうひとつきっかけがあって、事故でむちうち症になって、それで頭痛と吐き気で眠れない日々が続いたので、自分のために環境音楽のようなものを作り始めたました。

竹田 ご自身が眠るための音楽だったのですね。

溝口 僕のファーストアルバムはまさに「眠るための音楽」というのがサブタイトルでした。

竹田 近年はどういった活動をされていますか?

溝口  2010年から自分自身のレーベルをスタートさせました。
今でこそクラシックのDSD音源はたくさんありますが、まだ今ほどではない頃にチェロのクインテットをDSD録音してリリースしたり。
そのアルバムはとある大手のハイレゾ配信販売サイトで2,3ヶ月トップでした。

そういったハイレゾの録音を中心に活動しています。

※写真は、溝口さんの最近の作品たち

ソロアルバムとしては、ご自身初めての全曲オーケストラによるレコーディング。溝口さんの代表曲「世界の車窓から」テーマ曲もオーケストラバージョンを初収録。全曲、溝口肇作曲、アレンジ、プロデュース。

コロナ禍に制作されたもので、抑圧された環境下の不安を癒す作品。 作曲、アレンジ、演奏、ミックス、マスタリング(配信)を全てご自身で行ない、ゲストミュージシャンはリモート録音での参加だったとのこと。 ジャケットは溝口さんの愛猫ちゃんだそうです。

 

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